些末なこと

何の役にも立ちません

"Garden"のこと

2022年4月24日に開催されたM3春にて、「Garden」という曲集をリリースしました。

ライナーノーツというのは気恥ずかしいけれど以下覚え書きです。

 


今回は花をテーマにして、ジャケットはエモチカさんにご依頼しました。

エモチカさんはTwitterで知り合い、物凄く可愛くて色彩豊かな作品を描かれる大好きな方です。花、庭をイメージしています、くらいのおぼろげな依頼だったのに、テーマカラーとラフをセットでいくつも提案してくださって、そのどれもが本当に魅力的で……。一つに選ぶのは至難の業でしたが、深緑の色合いと小さな女の子に惹かれてこのデザインで描いていただきました。凄く凄く素敵な仕上がりにしてくださって、本当に宝物です。M3ではジャケに惹かれて立ち止まってくれたり、購入してくれた方もいらっしゃいました。
それから、この時にはまだ曲が揃っていなかったけれど、最終的に少女、女性が通底するテーマのひとつになったのでそこも有難かったです。
曲目には好きな花や思い入れのある花を選び、花が咲く春夏秋冬の順に並べ、最後にシロツメクサで春に戻ってくるようにしました。秋あたりに花枯れを歌った既存曲「Wither」も入れました。

 

Mimoza
毎年買いたくなる、とても好きな花です。国際女性デーの花でもあり、女性に限らずですが誰もが痛みや制約、どうにもならなさを抱えながら懸命に生きているなあということを歌いました。
「わたしはわたしを生きる」という言葉は、もう何年も前から何か辛いことがあったり疎外感で苦しくなったりしたときに自分の中で噛みしめる言葉です。わたしはわたしを生きよう、と下手をすれば口に出してしまうと、不思議とふっと楽になります。つい背負いがちな役目なんて気にせず、誰かがはめてくる属性なんてくそくらえで、あなたもわたしもしなやかに自分を生きられたらいいねという歌です。

 

Hina
「深夜の2時間DTM」というTwitterの企画で雛祭りがテーマだったときにつくったものを膨らませた曲です。
七段飾りでかくれんぼをしたことも、お椀や牛車で遊んでいたことも、人形が突然落ちてきて悲鳴をあげたことも実体験です。母が祖母に買ってもらったという古いお雛様は、狭い団地の薄暗い畳の部屋に飾られていました。綺麗ではあったけれどひたすら怖かった。
ちなみにそこそこひねくれた子どもだったので、お嫁さんに憧れたことは一度もありません。

 

Gypso
数年前から一緒に曲をつくっているShushi Matsuuraさんとの共作です。彼が作ってくれたトラックにわたしが歌をのせて返し、仕上げてもらうといういつものやり方でつくりました。


去年、海辺で売っていたブルーのカスミソウがあまりに綺麗で感激して衝動買いしたら、インクを吸わせて染めているのだと知ってちょっとがっかりした思い出があります。こぼれ落ちてしまうくらいさりげない小花ってとても愛おしいです。

 

Dokudami
むしってもむしってもしたたかに生えてくる、強烈な匂いのあの花を曲にしました。ピアノレスの曲を一曲くらいは入れたいと思い難儀しながら真っ白なDAWに向かいました。

 

Ortensia
ずいぶん前に友人からあなたは紫陽花のようなひとだねとiittalaのortensiaの器を贈ってもらったことがあって(なぜ紫陽花ぽいのかは謎)、以来なんとなく気になる花です。何かに巻かれたいけど巻かれずに、君を君たらしめているものを追求していきたいね、というようなことを言っていると思う。
アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』で毎回ゲストが「あなたをあなたたらしめているものは何ですか」と質問されるところが好きだなあと思っていたのだけど、これを書くにあたり読み返したら「あなたは何をもってあなた自身の存在を正当となさいますか」と言っててとんだ記憶違いだった。
青や紫より淡い白や薄いピンクの小さな花びらの紫陽花が好きです。枯れかけも素敵。中盤は日本の古代色から紫陽花の色を歌いました。

 

Manjyusaka
これも「深夜の2時間DTM」でつくった曲で(確か秋の花がテーマだったか…?)、その当時slowstoopさんがめちゃくちゃ格好良くリミックスしてくれました。うねるベースやギターを弾いてくださってとても嬉しかった。

彼岸花には毒があるから触ってはだめと母からきつく言われていたので、昔はこの花を遠くから眺めるだけでも怖くてたまらなかった。小さな頃は怖いものだらけだったけれど今はほとんどありません。大人になってしまった。

 

Wither
以前単発でつくった曲です。花が枯れて朽ちていくさまは美しいと思う。徒花咲き散る、の部分は自分でも気に入っている歌詞です。三声でハモるのが最近楽しくてラストはこてこてにハモりました。
今回全編に花や花にまつわる言葉を散りばめました。テーマが決まっていると歌詞を書くのがとても楽しかった。

 

Snowdrop
昔、「森は生きている」という演劇が大好きだったので、劇中で大切な役割を果たすマツユキソウは自分にとって特別な響きを持つ花です。でも実際に見たことはなく、なんとなく寒い国つながりでアアルト展で見たパイミオのサナトリウムの写真などを思い浮かべながらピアノを弾きました。
最近ロシア情勢のニュースを見るたび、「森は生きている」のことが頭をかすめます。

 

Cammelia
椿が落ちるさまを昔の人は斬首に例えたという話も聞きますが、冬のつめたい空気のなか艶やかな花や葉をたくわえる椿は美しいなと思います。幼い頃は暇すぎて椿の花をむしり花びらを剥いでいって花粉を地面にこすりつけるという残酷な遊びをしていたなあ。
最近「ウイングスパン」という鳥のゲームの影響で鳥が大好きになったのですが(単純)、それ以前からずっと好きなのがパフィンで、花がテーマのこの曲集をつくりはじめてからエトピリカの別名が花魁鳥であることを知った時は(花魁も物凄く好きだから三重に嬉しい)絶対に歌詞に使おうと震えました。なのでかなり無理矢理な感じで入っています。
「惑う時は遠くを見る 和らいでいく 動く限り」というのはわたしなりの嫉妬対処法です。

 

Clover
花冠をつくる、というフレーズからつくりはじめた曲です。シロツメクサの原っぱの真ん中にうずくまって無心で花を編む時間は幾つになっても幸せで、同時に幼い頃のことがフラッシュバックして切なくなります。シロツメクサの名は船の積み荷のクッション材として使われていたことに由来すると聞きました。そんなさりげなさも好きです。
終盤の「お下げが~」からのメロディは自分の好きな感じを詰め込みまくっていて、思いがけずこれがぽろっとボイスメモに録れたとき(いつもそういう作り方です)、この曲をラストに入れようと決めました。

 

おまけ
シークレットトラックが好きなのでひっそり入れました。これまでつくったCDのシークレットトラックはすべてハ長調の曲です。ピアノ弾きにとっては原点のような気がします。
昔は「光」という言葉に仰々しさやわざとらしい明るさを感じて抵抗があったのですが、以前歌詞を書いてもらった際に歌った「光」というフレーズを聴き返すたび、自分の声ながら不思議と力をもらう感じがして以来良い言葉だなと思えるようになりました。


出発点は花でしたが、枠にはめられることなくわたしはわたしを生き、幼少時代の思い出も愛でつつ自分だけの小さな庭を育てていこう、という曲集になりました。
一緒につくってくださった方々、そして手に取ってくださり、聴いてくださった方々に心から感謝しています。ありがとうございました。